紙のコラム

紙のコラム:月の砂漠

月の沙漠(さばく)を はるばると
旅の駱駝(らくだ)がゆきました
金と銀との鞍(くら)置いて
二つならんでゆきました

金の鞍には銀の甕(かめ)
銀の鞍には金の甕(かめ)
二つの甕は それぞれに
紐(ひも)で結んでありました

さきの鞍には王子様
あとの鞍にはお姫様
乗った二人は おそろいの
白い上着(うわぎ)を着てました

曠(ひろ)い沙漠をひとすじに
二人はどこへゆくのでしょう
朧(おぼろ)にけぶる月の夜(よ)を
対(つい)の駱駝(らくだ)はとぼとぼと

砂丘(さきゅう)を越(こ)えて行(ゆ)きました
黙(だま)って越えて行(ゆ)きました

金と銀というと、真っ先に「月の砂漠」のうたが、脳内を駆け巡る。歌詞だけを見ていれば、この先希望の地で幸せになる王子様とお姫様で、めでたしめでたし、なんだろうけど。切ないメロディを伴えば、財産をありったけ持って~それは城を築けるほど多いものではない。王子様とお姫様は、何かの事情で国を追われて、行き先も定まらず、ただただ砂漠を行く寂しい歌にも思える。それでも、身分を証明するための金と銀の鞍。きっとお供の者もいないか、2人程度の小部隊。どうぞ、幸せになるために砂漠を生き切ってくださいと願わずにはいられない。
白い上着が、白装束に思える私こそ、病んでいるのだろうか。

金と銀と言うと、次に浮かぶのが、「金の斧」。今どきの若者は、なんて言うんだろう。「三本全部私の斧です」とか「斧なんか落としてねーよ」。沼の女神さまがお困りになるパターンだろうか。確かに、普通の斧から見たら、金の斧も銀の斧も魅力はある。しかし、金は柔らかすぎて、木が切れない。銀は、温泉で簡単に錆びるから、これまた役立たず。長く磨いで使える鉄の斧は、一番使い出がある。それこそ「お金になる斧」だ。この物語の時代に、貴金属も買い取ります金券ショップが存在したわけでもないし、金の斧も銀の斧もたちまち生活に困るだけのものであって、私はいらない。
もしかして、その斧は、自分のものではなくて、自分は弟子っ子であって、親方から借りている斧かもしれない。そしたら、金と銀の斧を持って行ったところで、叱られるだけである。だったら、素直に、鉄の斧を返してもらった方がいい。女神さまは拍子抜けするだろうが、余計なものは、正直者のご褒美でも、もらわないに越したことはない。
逆に、ちゃっかりしているならば、斧はいりません。その代わり、落とした間の今日のノルマを女神様、ちゃっちゃと魔法で切ってくれませんか、だな。
いかん。完全に現実思考になって、ファンタジーが成立しない。ご褒美で素直にもらうことで、正直者は得をするというお話なのに。

金と銀って、時々厄介だと思う幼少時代でした。今のように、金銀だけの折り紙詰め合わせセットを売っている100均もなく、色紙の上部に、2枚だけ別格で入っている折り紙。赤とか青なら2枚しか入ってなくっても、順番に使えるのに、金と銀だけは、特別なんだよね。紙が弱いのかな。鶴がきれいに折れたためしがない。安易に使えないというか。特別な時にしか使えないというか。
特別過ぎて、お友達に「使ってなければ、ちょうだい!」と言われた時に、NOが言えない。大切に仕舞っておきたいのに、誰かに結局取られてしまうのだよね。その誰かは、安易に切り刻み、紙吹雪とか作ってばらまいてしまい、先生が掃除してゴミ箱だったりした。

今は、もっと厚い金と銀の紙があるらしい。なんと、折り紙だと、マジックでもはじいてしまって、本当に字が書けない使い勝手の悪い2つだった(私の時代はね)けど、インクジェットプリンターでダーッと目立つようにデコレイトできるんだって。
便利だな。

世の中は確実に進歩している。金と銀を選んで、すてきなポスターやカードもできる。使い勝手のいい紙が開発されることは、とてもいい。
私は。金の斧と銀の斧を持って、きれいな山奥でつつましく暮らし始めた、王子様とお姫様を願いたい。

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