私たちの身の回りにある、さまざまな“紙”。あまりにも身近な存在だけに、なにも気に留めずに使ってしまいがちですが、じつは製造工程などでさまざまな工夫がされています。
また、「水と空気以外どんなものでも印刷できる」と言われるスクリーン印刷をはじめ、昨今の印刷技術は目覚ましく進化してきました。
今回は、紙と印刷の歴史や最新技術をわかりやすく丁寧に解説している書籍『トコトンやさしい紙と印刷の本 (今日からモノ知りシリーズ)』の内容を一部ご紹介します。
紙は何でできている?
本書では、紙の原料についても解説されています。
紙を構成する主成分はその昔は麻やぼろ布でしたが、現在は木材繊維です。針葉樹、広葉樹の両方が原料となり、それぞれの特性を生かした紙に加工します。
針葉樹:
スギ、ヒノキ、カラマツなどの針葉樹は繊維が長くて太く、繊維間の結合が強いことが特徴です。包装用紙や段ボール原紙など、強度が求められる紙に使われています。
広葉樹:
ユーカリやアカシアなどの広葉樹は、寸法変化が少なく印刷にも適しています。印刷会社で使用される用紙のほか、コピー用紙やノーカーボン紙などの情報用紙に向いています。
また、紙の原料といえば「パルプ」と答える方が多いと思いますが、そもそもパルプとは何を指しているのでしょうか?
樹木の内部ではリグニンという高分子物質により、繊維細胞どうしがくっついて強度を保っています。この繊維をバラバラにしたものがパルプです。そして、バラバラにすることを「パルプ化」といいます。
木材パルプは製造法による違いで「機械パルプ」と「化学パルプ」の2つに分けられます。
機械パルプ:
木材を機械的にすりつぶすなど物理的な力を加えて、パルプ化したものです。木材は丸太のまま、あるいはチップ(木の枝や廃材の皮をむいて小片にしたもの)を使います。繊維の長い針葉樹から作られ、リグニンをそのまま含み、成分はほぼ木材と同じです。
繊維壁内部はささくれ立った形態をしているので、印刷インクなどの吸水性に優れます。強度は弱く、リグニンによる白色度の低下や退色が問題です。そのため、おもに低質紙の原料となります。
化学パルプ:
リグニンを化学薬品で溶出してパルプ化したものです。針葉樹、広葉樹のどちらにも使われます。木材繊維が機械によるダメージを受けないので、繊維表面はなめらかです。叩解(こうかい)という、パルプ繊維を機械的に切りほぐしたり押しつぶしたりする作業により、繊維同士を絡み合わせて強度を高めます。
「デジタル化」に焦点を当てた紙と印刷の本
著者である前田秀一さんは、大学卒業後に王子製紙株式会社へ入社。同社研究所で情報記録用紙、電子ペーパー、光学部材などの研究開発に従事しました。現在は東海大学情報理工学部で教鞭を執っています。
著者によると、「紙」「印刷」という、とてつもなく広く深い分野を一冊の本にまとめるために、「デジタル化」をキーワードとして執筆したそうです。
本書は「これまでの紙」から紙の基礎である「紙の物理と化学」、そして「印刷とその用紙」「さまざまな紙と印刷」「紙と環境」「紙とデジタル技術」と続き、最後に「これからの紙」で締めくくる構成になっています。
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「紙」と「印刷」についてわかりやすく詳しく書かれた、今までありそうでなかった本です。紙や印刷に関わる仕事をしている方には、とくにおすすめしたい一冊。ぜひ読んでみてくださいね!