2024年7月3日より、現在の紙幣からデザインを変えた新作が発行されます。すっかり見慣れた現在の紙幣に切り替わったのは、2004年11月1日。約20年ぶりの新しいお札ということになります。今回は一万円札、五千円札、千円札の3種が新しくなり、肖像も変わります。
定期的にお札を新しくするのは、偽造防止が目的です。今回の新札にも、新たな偽造防止技術が採用されています。さらに、目が不自由な方などにも使いやすいように、新たに採用されたユニバーサルデザインもあります。
この記事では、肖像に採用された3名の偉人、偽造防止技術、ユニバーサルデザインの新札に関わる3点を解説します。新札が手元に届く前に、ぜひ読んでみてください。
肖像に採用された3名の偉人
今回発行される新札は、一万円札、五千円札、千円札の3種類です。いずれも表面には肖像が描かれています。一万円札は渋沢栄一、五千円札は津田梅子、千円札は北里柴三郎です。お札の多くに肖像がデザインされている理由は、「顔の変化に気付きやすい」という人間の特性により、偽造紙幣が見分けやすいためです。
肖像に採用される基準としては、まず日本国民が世界に誇れる人物で、教科書にも載っているような有名な人物であること。加えて、偽造防止の観点から精密な写真や絵画が入手できる人物であることが挙げられます。これらの基準を満たす人物ということで、肖像には明治以降に活躍した文化人が選ばれています。
渋沢栄一(1840~1931)
渋沢栄一は、「近代日本社会の創造者」とも言われる人物で、現在でも読み継がれている「論語と算盤」の著者であり、「道徳経済同一」の思想で知られる実業家です。江戸時代に農民から武士に取り立てられ、後に第15代将軍となる一橋慶喜に仕えます。
明治維新後は、金融商社である「商法会所」を設立。その後、大蔵省の官僚として国づくりに携わります。退官後は「第一国立銀行」「東京商法会議所」「東京証券取引所」などの団体を設立・経営、約500社の企業に関わったとされ、約600の教育機関や社会公共事業、研究機関等の設立・支援にも尽力しました。
ちなみに、第一国立銀行は、現在のみずほ銀行です。「国立」とありますが、国立銀行条例に基づく銀行の意味で、国営銀行ではなく民間銀行です。
津田梅子(1864~1929)
津田梅子は、現在の津田塾大学の創設者として有名な教育家です。1871年に当時6歳で、日本最初の女子留学生として岩倉遣外使節団と共に渡米。17歳で帰国するまで、ワシントンに滞在しています。
帰国後は華族女学校教授に就任しますが、女性の地位を高めるための学校を作るべく、1889年には再渡米し、ブリンマー大学に入学しています。在学中に、日本女性のための奨学金を設立しました。
1892年に帰国し、華族女学校、女子高等師範学校(現在のお茶の水女子大学)で教鞭を執った後、1900年、女子英学塾を創設します。この女子英学塾が、1943年に津田塾専門学校となり、1948年には津田塾大学となります。
北里柴三郎(1853~1931)
北里柴三郎は、微生物学者・教育者で、「近代日本医学の父」とも呼ばれています。破傷風菌の純粋培養に、世界で初めて成功。さらに、破傷風菌の毒素を中和する抗体の発見、血清療法の確立、ペスト菌の発見など、多くの功績で知られています。
1892年には、のちに国立伝染病研究所となる私立伝染病研究所を設立、1914年には北里研究所を設立しています。1917年には、慶應義塾大学医学部を創設しています。日本医師会を始めとする医学団体や、病院の設立などの社会活動でも大きな功績を残しています。
北里柴三郎は、現在発行されている千円札の肖像である野口英世や、一万円札の肖像である福沢諭吉とも縁が深い人物です。野口英世は、国立伝染病研究所に助手として入所し、語学力を生かして外国の図書・論文の整理、抄録、雑誌の編集などを任されていました。
福沢諭吉は、国立伝染病研究所の設立を支援しています。北里柴三郎が慶應義塾大学医学部の創設に尽力したのは、福沢諭吉に恩を返す意味もありました。
新札に採用されている偽造防止技術
新札を発行する理由はおもに偽造防止にあり、今回の新札でも新しい技術が採用されています。ここからは、新札の偽造防止技術について紹介します。
高精細すき入れ
「すき入れ」というのは、部分的に紙の厚さを変えて、透かしたときに模様が見えるようにすることです。
従来からお札には肖像の「すき入れ」がなされていましたが、新札では肖像の背景にあたる部分に緻密な線画で構成されたすき入れ模様が入っています。新札を入手したら、光に透かして確認してみてください。
3Dホログラム
現在発行されているお札にもホログラムは採用されていますが、新札では新たに3Dホログラムが採用されています。
お札の角度を変えると、3Dで表現された肖像が回転して見えるというものです。お札に採用されるのは世界初となる最新の技術です。
継続して採用される偽造防止技術
上記2つの新しい技術の他に、従来から採用されている技術ももちろんあります。以下、簡単に紹介します。
・お札を傾けると数字や文字が浮き出る「潜像模様」
・お札を傾けるとピンク色の光沢が見える「パールインキ」
・ルーペなどを使わないと見にくい極めて小さい「マイクロ文字」
・インクが高く盛り上がった「深凹版印刷」
・目の不自由な方の助けになる「識別マーク」
・3本の棒が透けて見える「すき入れバーパターン」
・紫外線を当てると発光する「特殊発光インキ」
誰もが使いやすいユニバーサルデザイン
新札には、目が不自由な方を含め、多くの人にとって使いやすいユニバーサルデザインも採用されています。
識別マーク
識別マークは、深凹版印刷によるざらつきを利用して、目が不自由な方でも指で触ってお札の種類を確認できるようにしたものです。現在流通しているお札では券種によって識別マークの形が変えられていました。
新札では識別マークの形状自体は、指で触って感知しやすい11本の斜線に統一され、識別マークの位置を券種ごとに変えてあります。現在のマークよりも、さらに識別しやすくなっています。
券面の数字を大型化
ユニバーサルデザインが採用された新札のもう一つの特徴は、券面に書かれた数字が大きくなったことです。従来は漢数字の「壱萬円」や「五千円」「千円」の文字が大きく印刷されていましたが、新札ではより目立つ位置にアラビア数字で額面が印刷されています。
年齢や国籍を問わず広く使われているアラビア数字に変わることで、多くの人に分かりやすい表記となりました。
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間もなく発行される新札について紹介しました。
新札が発行されると、しばらくは新しいお札が使えない自動販売機があるなど、面倒なこともあります。その一方で、肖像に選ばれた人について学んだり、偽造防止の技術やユニバーサルデザインについての知識を得たりするのも、楽しいのではないでしょうか。この機会に新しいお札について知り、新札への切り替えに備えてください。